日本大学工学部生命応用化学科
Polycyclic aromatic
hydrocarbons
and Organic Electronics
私たちの身の回りには、電気を流す材料、光を吸収する材料、光を発する材料など、さまざまな機能をもつ物質が使われています。たとえば、スマートフォンやテレビのディスプレイ、有機EL、太陽電池、センサー、電子ペーパーなどには、光や電気に応答する材料が重要な役割を果たしています。これらの材料の中には、金属や無機物だけでなく、炭素を中心とした「有機化合物」からつくられるものもあります。このような有機化合物を利用した電子・光機能材料は、「有機エレクトロニクス材料」と呼ばれ、次世代の軽量・柔軟・省エネルギーなデバイスを支える材料として注目されています。
私たちの研究室では、有機エレクトロニクス材料への応用を目指して、「多環式芳香族化合物」と呼ばれる分子の合成と性質の解明に取り組んでいます。芳香族化合物とは、ベンゼンに代表される安定な環状構造をもつ有機化合物のことです。ベンゼン環がいくつもつながったり、縮み合ったりした分子は、多環式芳香族化合物と呼ばれます。これらの分子は、分子全体に電子が広がりやすいという特徴をもち、光の吸収、発光、電気伝導、酸化還元などの性質を示します。そのため、有機半導体、有機EL材料、有機太陽電池材料、電気化学応答材料などへの応用が期待されています。
多環式芳香族化合物の面白さは、分子の形や大きさ、含まれる元素、置換基の種類を変えることで、その性質を大きく変えられる点にあります。たとえば、分子を大きくして電子が広がる範囲を広げると、吸収する光の波長が長くなり、赤色や近赤外領域の光に応答する分子をつくることができます。また、電子を与えやすい置換基や、電子を受け取りやすい置換基を導入すると、分子内で電子の偏りが生じ、光や電気に対する応答を精密に調整できます。さらに、分子を平面状にしたり、ねじれた構造にしたりすることで、分子同士の重なり方や結晶中での並び方も変化し、固体状態での発光や電荷輸送特性にも影響を与えます。
このように、分子の構造と性質の関係を理解することは、新しい有機機能材料を設計するうえで非常に重要です。私たちの研究では、まだ十分に研究されていない独自の芳香族骨格や、五員環・七員環を含む非ベンゼン系芳香族化合物にも注目しています。一般的なベンゼン環だけからなる分子とは異なり、これらの化合物では電子の分布や分子の形が特徴的になり、従来の材料にはない光学特性や電気化学特性が現れることがあります。
研究の第一歩は、目的とする分子を実際につくることです。有機合成化学の手法を用いて、複数の反応を組み合わせながら新しい多環式芳香族化合物を設計・合成します。得られた化合物については、NMR、質量分析、X線結晶構造解析などを用いて構造を確認し、さらに紫外可視吸収スペクトル、蛍光スペクトル、電気化学測定、理論計算などによって性質を詳しく調べます。これにより、「どのような構造にすると光を強く吸収するのか」「どのような分子が発光しやすいのか」「電子を受け取りやすい、または放出しやすい分子はどのような特徴をもつのか」といった問いに答えることを目指しています。
私たちが目指しているのは、単に新しい分子をつくることだけではありません。分子の構造を少し変えることで性質がどのように変化するのかを明らかにし、その知見をもとに、より優れた有機エレクトロニクス材料を設計することです。小さな分子の設計が、将来のディスプレイ、センサー、エネルギー変換材料、情報表示デバイスなどにつながる可能性があります。
私たちの研究室では、多環式芳香族化合物の美しい構造と多彩な性質に注目し、未来の有機エレクトロニクス材料につながる新しい分子科学の開拓を進めています。
